2003-01-01から1年間の記事一覧

高野 素十:雪つみて小さき墓の並びをり

雪 つ み て 小 さ き 墓 の 並 び を り 素十 下五「並びをり」が絶妙。「写生」の確かさと、素十の「写生」の強さがよく表れた作品だ。 *出典:「ホトトギス」38-5 *年月:1935.2.1 *頁数:90p *備考:高浜虚子選「雑詠欄」より

芥川龍之介:労咳の頬美しや冬帽子

労 咳 の 頬 美 し や 冬 帽 子 我 鬼 「我鬼」は芥川龍之介の俳号。「労咳」は結核を指す。 男が帽子をかぶり、街を歩いている。彼は結核に冒され、肌が透きとおるように白い。歩いているためか、咳きこんだのか、頬が上気している。体力がすでに衰えている…

倉敷市内の家の障子:the syoji screen at dusk,Kurashiki City

(画像クリック→flickr) *倉敷の美観地区界隈には昔ながらの家が多く残っており、中を拝見すると風情のある様子がしのばれます。 画像はある家の一室の障子。日没の少し頃でした。写真は2012年撮影。 ■Sony NEX-7

関 悦史 : 地下道を蒲団引きずる男かな

地下道を蒲団引きずる男かな 悦史 存在はしているが、誰も句に詠まない。そのような風景を発見するのが「写生」の本領とすれば、掲句は平成年間の「写生」句といえよう。“男かな”にほの見える心情も興味深いところだ。 作者の関悦史(1969-)は「写生」の力…

高野 素十 : 漂へる手袋のある運河かな

漂 へ る 手 袋 の あ る 運 河 か な 素 十 「客観写生」の最高峰。表現、内容、どこも奇をてらっていない。それでいて、凄みを感じさせる。特に上五「漂へる」が絶妙だ。ここに素十の「写生」の本領がある。 こういう句を称賛した高浜虚子の選句眼が凄い、…

山口 誓子:地下鉄の奈落の響き毛糸編む

地 下 鉄 の 奈 落 の 響 き 毛 糸 編 む 誓 子 季語は「毛糸編む」(冬)。"奈落"の"響き"がポイントであると同時に、「地下鉄の奈落の響き」が「毛糸編む」と取り合わされた時、"響き"と"毛糸編む"が一気に絡みあい、奥行きが増すところが絶妙。 昭和29年…

富澤赤黄男:くらやみへ ぶらさがりたる 氷の手

く ら や み へ ぶ ら さ が り た る 氷 の 手 赤黄男 赤黄男の戦後の傑作。この句は当時の俳壇内で考えるより、現代詩の『荒地』派あたりの関連で捉えた方が魅力を増すだろう。敗戦を生き延びた者の胸に巣食う“戦争”の暗鬱さを彷彿とさせる作品だ。 *出典…

山口 誓子: 頭なき鰤が路上に血を流す

頭 な き 鰤 が 路 上 に 血 を 流 す 誓 子 戦後の誓子が標榜した、“慄然俳句”の代表例。かつての盟友、水原秋桜子が忌み嫌った句としても著名だ。 --------------------------------------------- *雑誌:「天狼」5-2 *年月:昭和27.2.1 *頁数:1p *備…

広島県呉市の両城あたりの風景

*広島県呉市は戦前以来の軍港で、大和ミュージアム等が著名だが、市内中心部からやや西の両城地区の風情はなかなか見どころがある。急傾斜の山を明治末期から住宅地として開発し、迷路のように急階段が張り巡らされた。「両城の200階段」等も有名だ。写真は…

平畑 静塔:秋耕の夜の手に辞書の紙うすし

秋耕の夜の手に辞書の紙うすし 静塔 平畑静塔はこういった句を量産しうる作家だった。「夜の手に」が巧い。季語は「秋耕」。 *収録:「天狼」2-1、昭和24.1.1 *頁数:13p *備考:「辞書」中の一句。

藤後 左右:噴火口近くて霧が霧雨が

噴火口近くて霧が霧雨が 左 右 季語は「霧」(秋)。 熊本阿蘇山の登山から生まれた句。“霧が霧雨が”は登山時の状況を詠んだのだろう。 人を喰った軽やかさは歌謡曲のようで(平畑静塔も指摘)、素人が五七五のリズムにあわせて口ずさむかのようだ。 語呂の…

山口 誓子:墓に向け秋咲く花の環を置ける 

墓に向け秋咲く花の環を置ける 誓子 「秋咲く花」の措辞がすばらしい。墓と花の上に広がる秋空が彷彿とされる。しかもそれは、春や夏、冬ではなく、この“秋”に花を供えたところに、誓子の感情の高ぶりがうかがえる。 俳句にさほどなじみのない読者には、でき…

藤後 左右:曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き

曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き 左右 中七“どこそこに咲き”が絶妙だ。 秋にあちこち咲く曼珠沙華の景色を言い当てており、しかも軽妙である。 「ホトトギス」雑詠欄でこの句を見ると、“どこそこに咲き”の素晴らしさがより映えるだろう。 他俳人が入選を目指…

京都の西陣界隈

*西陣界隈を折に触れて散歩します。織物で盛名をはせた町のため、その面影をたずねて歩くのも楽しい。 たとえば、住まい。 西陣には何気ないながらも素晴らしい建築が散見されます。洋風建築の豪奢さではなく、往時の町家を想わせるたたずまいです。 よく見…

攝津 幸彦: 南国に死して御恩のみなみかぜ  他

皇国且つ柱時計に真昼来ぬ 幾千代も散るは美し明日は三越 皇国花火の夜も英霊前をむき 春霞軍神といふ桧かな 南国に死して御恩のみなみかぜ 霧去りて万歳の手の不明かな 攝津幸彦による戦後俳句史の金字塔。彼はまだ二十代だった。 ------------------------…

攝津 幸彦: 黒船の黒の淋しさ靴にあり

黒 船 の 黒 の 淋 し さ 靴 に あ り 幸 彦 無季。“淋しさ”をどのように捉えるかで、作品の奥行きが変わるだろう。攝津らしい句。 攝津幸彦は前衛俳句の雄として期待されたが、早世した。 ---------------------------------------------------------------…

高屋 窓秋:母の手に英霊ふるへをり鉄路

母の手に英霊ふるへをり鉄路 窓秋 高屋窓秋の連作無季俳句中の一句。時は昭和十三年五月、日中戦争勃発から一年になりつつあった。同時代俳句と比較すると、窓秋の特殊さがよく分かる。 *出典:「京大俳句」6-5、1938.5.1 *頁数:18p *備考:「会員集」よ…

石田 波郷:雷の下キヤベツ抱きて走り出す

雷の下キヤベツ抱きて走り出す 波郷 一瞬の情景。「キャベツ」が美味しそうなのも、敗戦直後ゆえだろう。季語は「雷」で夏。 *初出:「現代俳句」1-3、昭和21.11.5。24p *備考:「秋ふたゝび」中の一句。

秋元不死男: 子を擲ちしながき一瞬天の蝉

子 を 擲 ち し な が き 一 瞬 天 の 蝉 京 三 “ながき一瞬”に男のロマンティシズムが香る。また、“天の蝉”は当時の新興俳句らしい措辞だ。 東京三(ひがし・きょうぞう)は戦後の秋元不死男。この頃は新興俳句運動の渦中にあり、山口誓子に私淑していた。 …

高浜 虚子: 打水にしばらく藤の雫かな

打 水 に し ば ら く 藤 の 雫 か な 虚 子 情景の設定、焦点の絞り方、それらを生かすには何を省けばよいか、全て整っている。特に「しばらく」にこめられた時の推移が絶妙だ。この時の虚子は27歳、しかしすでに子規派の重鎮として名を馳せていた。 虚子が…

石田 波郷: 蠓を唇に当てたる独言

蠓 を 唇 に 当 て た る 独 言 波 郷 「蠓」は“まくなぎ”と呼ぶ虫の名。折しも“人間探求派”と称された時期の作品である。思わせぶりな仕上がりが波郷らしい。 --------------------------------------------- *雑誌:「俳句研究」7-7 *年月:昭和15.7.1 …

川端 茅舎: 金輪際わりこむ婆々や迎鐘

金 輪 際 わ り こ む 婆 々 や 迎 鐘 茅 舎 季語は「迎鐘」(夏)。上五の“金輪際”が絶品。茅舎にしかなしえない措辞だ。 --------------------------------------------- *出典:「ホトトギス」39-12 *年月:1926.9.1 *頁数:110p *備考:雑詠欄、第六…

阿波野青畝: 蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな

蟻 地 獄 み な 生 き て ゐ る 伽 藍 か な 青 畝 季語は「蟻地獄」(夏)。作品のうまさでいえば、最大の妙は下五を「伽藍かな」で終わらせたところ。「みな生きてゐる」の措辞も見事だ。僅か十七字しか使えない実作の感覚からすると、「みな生きてゐる」…

中村草田男:夜半の夏人形の目は目そらさず

夜半の夏人形の目は目そらさず 草田男 “人形の目は”の「は」に、草田男らしい「写生」の感覚が横溢している。 --------------------------------------------- *雑誌:「俳句研究」7-10 *年月:昭和15.10.1 *頁数:17p *備考:総タイトル「夏の絵・夏の…

中村草田男: 金魚手向けん肉屋の鉤に彼奴を吊り

金魚手向けん肉屋の鉤に彼奴を吊り 草田男 季語は金魚(夏)。草田男の境涯に照らすと、この時期の彼は保証人関連の詐欺に遭い、多難な生活を送っていた。それはこの句にも反映されていよう。 従来は草田男の境涯を句解にあてはめ、それ以上の分析はさして行…

西東 三鬼: 冷房にて銀貨と換ゆる青林檎

冷 房 に て 銀 貨 と 換 ゆ る 青 林 檎 三 鬼 “冷房”という新季語、また“貨幣・硬貨”と言わず“銀貨”とし、加えて”林檎”でなく“青林檎”としたところに、新興俳句らしい特徴が感じられる。 --------------------------------------------- ■雑誌:「俳句研究…

西東 三鬼: 緑蔭に三人の老婆笑へりき

緑 蔭 に 三 人 の 老 婆 笑 へ り き 三 鬼 どこか西洋画を感じさせる作品だ。 それにしても謎めいた句で、“笑へりき”の“き”、また“三人”という人数が奇妙である。なぜ三人なのか。 この句は「京大俳句」に「算術の少年しのび泣けり夏」と同時に掲載されて…

竹中 宏 : うつしよの糠蚊は水にいつ触れる

う つ し よ の 糠 蚊 は 水 に い つ 触 れ る 竹中 宏 “うつしよの”が絶妙。このように謳うことで“うつしよ”でない世界がゆらめきはじめ、“水”と響きあうところも巧妙である。 作者の竹中宏(1940-)は、有季定型でしかなしえない"俳句"の魅力を捉えようと…

山口 誓子 : 舐めゐたる蠅皿を匍ひ縁より去る

舐 め ゐ た る 蠅 皿 を 匍 ひ 縁 よ り 去 る 誓 子 季語は「蠅」(夏)。誓子のまなざしの奇妙さがうかがえる作品だ。特に"縁より去る"に、誓子の特徴がうかがえる。 ----------------------------------------------------------- *雑誌:「天狼」5-10 …

日野 草城: 高熱の鶴青空にただよへり

高 熱 の 鶴 青 空 に た だ よ へ り 草 城 戦争末期と敗戦後の混乱で心労が重なり、加えて肺を病んだ草城の句。 「高熱」にうなされ、すでに気品も覇気も失った「鶴」が、空が無限に広がる「青空」に不安定に漂う…病床に臥せる草城の心象風景を見るかのよ…