季語は金魚(夏)。草田男の境涯に照らすと、この時期の彼は保証人関連の詐欺に遭い、多難な生活を送っていた。それはこの句にも反映されていよう。
従来は草田男の境涯を句解にあてはめ、それ以上の分析はさして行わない傾向にあった。しかし、句のポイントは“金魚手向けん”にある。この措辞を発見しえたところに、俳人草田男の本領がある。
この作品は、「ホトトギス」雑詠欄巻頭を飾った。無論、選んだのは高浜虚子だ。
それは草田男句を「花鳥諷詠」と認定したことを意味し、虚子選に「ホトトギス」同人らは仰天したとか。活字に残っていないが、ある方は当時の同人からそのことを実際に聞いたという。
草田男の力量もさることながら、虚子の選句眼の幅広さを今に伝える一句である。
*雑誌:「ホトトギス」42-10
*年月:昭和14.7.1
*頁数:61p
*備考:雑詠欄巻頭、四句中の一句