2003-07-01から1ヶ月間の記事一覧
雷の下キヤベツ抱きて走り出す 波郷 一瞬の情景。「キャベツ」が美味しそうなのも、敗戦直後ゆえだろう。季語は「雷」で夏。 *初出:「現代俳句」1-3、昭和21.11.5。24p *備考:「秋ふたゝび」中の一句。
子 を 擲 ち し な が き 一 瞬 天 の 蝉 京 三 “ながき一瞬”に男のロマンティシズムが香る。また、“天の蝉”は当時の新興俳句らしい措辞だ。 東京三(ひがし・きょうぞう)は戦後の秋元不死男。この頃は新興俳句運動の渦中にあり、山口誓子に私淑していた。 …
打 水 に し ば ら く 藤 の 雫 か な 虚 子 情景の設定、焦点の絞り方、それらを生かすには何を省けばよいか、全て整っている。特に「しばらく」にこめられた時の推移が絶妙だ。この時の虚子は27歳、しかしすでに子規派の重鎮として名を馳せていた。 虚子が…
蠓 を 唇 に 当 て た る 独 言 波 郷 「蠓」は“まくなぎ”と呼ぶ虫の名。折しも“人間探求派”と称された時期の作品である。思わせぶりな仕上がりが波郷らしい。 --------------------------------------------- *雑誌:「俳句研究」7-7 *年月:昭和15.7.1 …
金 輪 際 わ り こ む 婆 々 や 迎 鐘 茅 舎 季語は「迎鐘」(夏)。上五の“金輪際”が絶品。茅舎にしかなしえない措辞だ。 --------------------------------------------- *出典:「ホトトギス」39-12 *年月:1926.9.1 *頁数:110p *備考:雑詠欄、第六…
蟻 地 獄 み な 生 き て ゐ る 伽 藍 か な 青 畝 季語は「蟻地獄」(夏)。作品のうまさでいえば、最大の妙は下五を「伽藍かな」で終わらせたところ。「みな生きてゐる」の措辞も見事だ。僅か十七字しか使えない実作の感覚からすると、「みな生きてゐる」…
夜半の夏人形の目は目そらさず 草田男 “人形の目は”の「は」に、草田男らしい「写生」の感覚が横溢している。 --------------------------------------------- *雑誌:「俳句研究」7-10 *年月:昭和15.10.1 *頁数:17p *備考:総タイトル「夏の絵・夏の…
金魚手向けん肉屋の鉤に彼奴を吊り 草田男 季語は金魚(夏)。草田男の境涯に照らすと、この時期の彼は保証人関連の詐欺に遭い、多難な生活を送っていた。それはこの句にも反映されていよう。 従来は草田男の境涯を句解にあてはめ、それ以上の分析はさして行…
冷 房 に て 銀 貨 と 換 ゆ る 青 林 檎 三 鬼 “冷房”という新季語、また“貨幣・硬貨”と言わず“銀貨”とし、加えて”林檎”でなく“青林檎”としたところに、新興俳句らしい特徴が感じられる。 --------------------------------------------- ■雑誌:「俳句研究…
緑 蔭 に 三 人 の 老 婆 笑 へ り き 三 鬼 どこか西洋画を感じさせる作品だ。 それにしても謎めいた句で、“笑へりき”の“き”、また“三人”という人数が奇妙である。なぜ三人なのか。 この句は「京大俳句」に「算術の少年しのび泣けり夏」と同時に掲載されて…
う つ し よ の 糠 蚊 は 水 に い つ 触 れ る 竹中 宏 “うつしよの”が絶妙。このように謳うことで“うつしよ”でない世界がゆらめきはじめ、“水”と響きあうところも巧妙である。 作者の竹中宏(1940-)は、有季定型でしかなしえない"俳句"の魅力を捉えようと…
舐 め ゐ た る 蠅 皿 を 匍 ひ 縁 よ り 去 る 誓 子 季語は「蠅」(夏)。誓子のまなざしの奇妙さがうかがえる作品だ。特に"縁より去る"に、誓子の特徴がうかがえる。 ----------------------------------------------------------- *雑誌:「天狼」5-10 …