高野 素十:雪つみて小さき墓の並びをり

雪 つ み て 小 さ き 墓 の 並 び を り 素十 下五「並びをり」が絶妙。「写生」の確かさと、素十の「写生」の強さがよく表れた作品だ。 *出典:「ホトトギス」38-5 *年月:1935.2.1 *頁数:90p *備考:高浜虚子選「雑詠欄」より

芥川龍之介:労咳の頬美しや冬帽子

労 咳 の 頬 美 し や 冬 帽 子 我 鬼 「我鬼」は芥川龍之介の俳号。「労咳」は結核を指す。 男が帽子をかぶり、街を歩いている。彼は結核に冒され、肌が透きとおるように白い。歩いているためか、咳きこんだのか、頬が上気している。体力がすでに衰えている…

関 悦史 : 地下道を蒲団引きずる男かな

地下道を蒲団引きずる男かな 悦史 存在はしているが、誰も句に詠まない。そのような風景を発見するのが「写生」の本領とすれば、掲句は平成年間の「写生」句といえよう。“男かな”にほの見える心情も興味深いところだ。 作者の関悦史(1969-)は「写生」の力…

高野 素十 : 漂へる手袋のある運河かな

漂 へ る 手 袋 の あ る 運 河 か な 素 十 「客観写生」の最高峰。表現、内容、どこも奇をてらっていない。それでいて、凄みを感じさせる。特に上五「漂へる」が絶妙だ。ここに素十の「写生」の本領がある。 こういう句を称賛した高浜虚子の選句眼が凄い、…

山口 誓子:地下鉄の奈落の響き毛糸編む

地 下 鉄 の 奈 落 の 響 き 毛 糸 編 む 誓 子 季語は「毛糸編む」(冬)。"奈落"の"響き"がポイントであると同時に、「地下鉄の奈落の響き」が「毛糸編む」と取り合わされた時、"響き"と"毛糸編む"が一気に絡みあい、奥行きが増すところが絶妙。 昭和29年…

富澤赤黄男:くらやみへ ぶらさがりたる 氷の手

く ら や み へ ぶ ら さ が り た る 氷 の 手 赤黄男 赤黄男の戦後の傑作。この句は当時の俳壇内で考えるより、現代詩の『荒地』派あたりの関連で捉えた方が魅力を増すだろう。敗戦を生き延びた者の胸に巣食う“戦争”の暗鬱さを彷彿とさせる作品だ。 *出典…

山口 誓子: 頭なき鰤が路上に血を流す

頭 な き 鰤 が 路 上 に 血 を 流 す 誓 子 戦後の誓子が標榜した、“慄然俳句”の代表例。かつての盟友、水原秋桜子が忌み嫌った句としても著名だ。 --------------------------------------------- *雑誌:「天狼」5-2 *年月:昭和27.2.1 *頁数:1p *備…