平畑 静塔:秋耕の夜の手に辞書の紙うすし

秋耕の夜の手に辞書の紙うすし 静塔 平畑静塔はこういった句を量産しうる作家だった。「夜の手に」が巧い。季語は「秋耕」。 *収録:「天狼」2-1、昭和24.1.1 *頁数:13p *備考:「辞書」中の一句。

藤後 左右:噴火口近くて霧が霧雨が

噴火口近くて霧が霧雨が 左 右 季語は「霧」(秋)。 熊本阿蘇山の登山から生まれた句。“霧が霧雨が”は登山時の状況を詠んだのだろう。 人を喰った軽やかさは歌謡曲のようで(平畑静塔も指摘)、素人が五七五のリズムにあわせて口ずさむかのようだ。 語呂の…

山口 誓子:墓に向け秋咲く花の環を置ける 

墓に向け秋咲く花の環を置ける 誓子 「秋咲く花」の措辞がすばらしい。墓と花の上に広がる秋空が彷彿とされる。しかもそれは、春や夏、冬ではなく、この“秋”に花を供えたところに、誓子の感情の高ぶりがうかがえる。 俳句にさほどなじみのない読者には、でき…

藤後 左右:曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き

曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き 左右 中七“どこそこに咲き”が絶妙だ。 秋にあちこち咲く曼珠沙華の景色を言い当てており、しかも軽妙である。 「ホトトギス」雑詠欄でこの句を見ると、“どこそこに咲き”の素晴らしさがより映えるだろう。 他俳人が入選を目指…