俳句時評 平成俳句の歩幅  (「朝日新聞」全国版)

「朝日新聞」2018.4.29、朝日俳壇・歌壇欄、9面。
俳句時評。下は全文。
 
 
明治改元から150年を経た今年も「ホトトギス」は健在だ。明治の創刊から121年、今も頁を開けば文章、雑詠欄、句日記等が並ぶ。これらは高浜虚子以来の誌面構成で、虚子の孫、稲畑汀子(87)による4月号の句日記(句の発表は1年後)を見てみよう。
 
  病床の一喜一憂とて日永 (4月2日)
 
「とて」に心情の綾が織りこまれつつ、人の一喜一憂にかかわりなく運行する四季の推移も示した花鳥諷詠句だ。
 
 昭和期に虚子を批判して独立した水原秋桜子の「馬酔木」も健在で、秋桜子に端を発した新興俳句は数多の平成俳人の源流となっている。「馬酔木」の系譜たる「鷹」に属した四ッ谷龍(59)は現在無所属で、「俳句αあるふぁ」春号に詩のように美しく不穏な句を発表した。
 
 ことづてのようなめまいが雪野から
 
 新興俳句を継承し、戦後に社会性俳句の旗手となった金子兜太は長逝したが、その反逆精神を継ぐ若者が彼の結社「海程」にいるのは心強い。高田獄舎(25)で、『俳誌要覧2018年版』(東京四季出版)所収句を見てみよう。無職の人々が妙に贅沢な夜食を興がるさまをあえて乱雑に詠んだ句だ。
  
 エスカルゴが夜食無職が三名揃い
 
 近代の伝統を受け継ぐベテラン、独り営々と俳句に挑む中堅、反逆児の面影を漂わせる青年。彼らを含む俳人群の歩みの幅は、やがて平成俳句史の光芒となろう。その輝きは、できれば「ホトトギス」4月号の句日記(4月27日)に見えるような歩みであってほしい、と願う。
 
 一歩又一歩春光又一歩    汀子