山口 誓子:墓に向け秋咲く花の環を置ける 

墓に向け秋咲く花の環を置ける 誓子

  
 「秋咲く花」の措辞がすばらしい。墓と花の上に広がる秋空が彷彿とされる。しかもそれは、春や夏、冬ではなく、この“秋”に花を供えたところに、誓子の感情の高ぶりがうかがえる。
 俳句にさほどなじみのない読者には、できごとを報告した作品に感じるかもしれないが、誓子一流の俳句といえよう。詠めそうで詠めない句だ。
 “墓に向け”のきまじめさも、誓子独特の淡いユーモアが漂う。昭和10年作。
 
収録:第三句集『炎昼』(三省堂)
年月:昭和13.9.15
頁数:44p
備考:タイトル「神戸外人墓地」中の一句。