藤後 左右:噴火口近くて霧が霧雨が

噴火口近くて霧が霧雨が 左 右

 
 季語は「霧」(秋)。
 熊本阿蘇山の登山から生まれた句。“霧が霧雨が”は登山時の状況を詠んだのだろう。
 人を喰った軽やかさは歌謡曲のようで(平畑静塔も指摘)、素人が五七五のリズムにあわせて口ずさむかのようだ。
 語呂のよさの一方、“霧が霧雨が”は詠めそうで詠めない。登山の状況をこのように省略しきって表現しえるのは、誰でもできることではない。
 全くの素人でも難しいが、句作に自負を持つプロがこのように軽い口調でまとめることも困難だろう。無手勝流の最高峰(?)、左右らしい秀句だ。 
 それにしても、これを秀句とした高浜虚子の選句眼は凄い。並の選者ならば採らないだろう。
 
出典:「ホトトギス」34-2
年月:昭和5.11.1
頁数:89p
備考:高浜虚子選、雑詠欄。巻頭、第二位。『新名勝俳句』にも入選。