芥川龍之介:労咳の頬美しや冬帽子

労 咳 の 頬 美 し や 冬 帽 子  我 鬼

 
 「我鬼」は芥川龍之介の俳号。「労咳」は結核を指す。
 男が帽子をかぶり、街を歩いている。彼は結核に冒され、肌が透きとおるように白い。歩いているためか、咳きこんだのか、頬が上気している。体力がすでに衰えているのだ。
 おりしも季節は冬。
 男の肌はより白く感じられ、そのため頬の赤らみがいっそう映える。何と美しいコントラストか――しかも、彼は労咳に冒されている。
 芥川本人いわく、「死病得て爪美しき火桶かな 蛇笏」に憧れて詠んだという。端正な詠みぶりだ。
 

出典:「ホトトギス」22-3
年月:大正7.12.1
頁数:81p
備考:高浜虚子選、雑詠欄中の一句