竹中 宏 : うつしよの糠蚊は水にいつ触れる

う つ し よ の 糠 蚊 は 水 に い つ 触 れ る 竹中 宏 “うつしよの”が絶妙。このように謳うことで“うつしよ”でない世界がゆらめきはじめ、“水”と響きあうところも巧妙である。 作者の竹中宏(1940-)は、有季定型でしかなしえない"俳句"の魅力を捉えようと…

山口 誓子 : 舐めゐたる蠅皿を匍ひ縁より去る

舐 め ゐ た る 蠅 皿 を 匍 ひ 縁 よ り 去 る 誓 子 季語は「蠅」(夏)。誓子のまなざしの奇妙さがうかがえる作品だ。特に"縁より去る"に、誓子の特徴がうかがえる。 ----------------------------------------------------------- *雑誌:「天狼」5-10 …

日野 草城: 高熱の鶴青空にただよへり

高 熱 の 鶴 青 空 に た だ よ へ り 草 城 戦争末期と敗戦後の混乱で心労が重なり、加えて肺を病んだ草城の句。 「高熱」にうなされ、すでに気品も覇気も失った「鶴」が、空が無限に広がる「青空」に不安定に漂う…病床に臥せる草城の心象風景を見るかのよ…

芝 不器男:白藤や揺りやみしかばうすみどり

白藤や揺りやみしかばうすみどり 不器男 黄昏どきの白藤を描きつつ、夢幻のひとときすら感じさせる作品。 上五の「や」が絶品だ。普通なら「白藤の」とするところを、「白藤や」としたところが凄い。 天才と謳われた不器男の傑作。 *雑誌:「ホトトギス」31…

野澤 節子:花冷の扉ひらけば子の匂ひ

花冷の扉ひらけば子の匂ひ 節子 季語は「花冷」(春)。要点は下五にある。野澤節子はこういう句が詠めた俳人だった。 *収録:「俳句」20-6 *年月:昭和46.6.1 *頁数:32p *備考:「山こだま」五十句中の一句。

原 石鼎:高々と蝶こゆる谷の深さかな

高々と蝶こゆる谷の深さかな 石鼎 若き石鼎が奈良の奥吉野に住まっていた時期の傑作。壮大な景色を難なく詠みおおせる凄さとともに、鳥ではない「蝶」が谷を越えるという状況がすばらしい。 それにしても、この頃の石鼎は神がかっていた。 *出典:「ホトト…

石田 波郷:夕つばめあつまつてとぶ空のあり

夕つばめあつまつてとぶ空のあり 波郷 季語は「夕つばめ」(春)。いかにも若き時代の波郷らしい一句だ。 *出典:「馬酔木」10-9、112号 *年月:1931.9.1 *頁数:47p *備考:水原秋桜子選雑詠欄

川端 茅舎: 木蓮に瓦は銀の波を寄せ

木 蓮 に 瓦 は 銀 の 波 を 寄 せ 茅 舎 陽光をこれほど見事に言いおおせた俳句は、ちょっと他に見当たらない。加えてデッサンも完璧。 確かな描写と完璧な比喩が融合した見事な作品であり、茅舎にはこのタイプの傑作が多い。 ----------------------------…

高屋窓秋 : ちるさくら海あをければ海へちる 「さくらの風景」連作

いま人が死にゆく家も花の蔭 晴れし日はさくらの空も遠く澄む 静かなるさくらも墓もそらの下 ちるさくら海あをければ海へちる --------------------------------------------- *雑誌:「馬酔木」6-10 *年月:昭和8.4.1 *頁数:147p *備考:総タイトル「…

宇佐美魚目:香を聞くすがたかさなり春氷

香 を 聞 く す が た か さ な り 春 氷 魚 目 「香を聞く」は聞香、つまりお香のこと。中七「すがたかさなり」が絶妙だ。この時期の魚目の句にはいずれも気品があり、この句もすばらしい。 ■出典:「俳句」23-3 ■年月:昭和49.3.1 ■頁数:35p ■備考:タイ…

高浜 虚子:大空に羽子の白妙とどまれり

大空に羽子の白妙とゞまれり 虚子 昭和10年12月の句日記から。丸ビル集会室の「草樹会」に投句。 “白妙”の用い方がうまい。加えて、“とゞまれり”に虚子独特の力強さがある。“白妙”に漂う淡い諧謔も彼らしい飄逸さだ。 季語は「羽子」。 *収録:「ホトトギス…