俳句時評 読み、詠む  (「朝日新聞」全国版)

「朝日新聞」2018.9.30、朝日俳壇・歌壇欄、面。
俳句時評。以下は全文。

 
今年も夏から秋にかけて多くの句集が刊行された。いくつかを紹介しよう。
 
  短夜の銀色となる駐輪場
 
 キム・チャンヒの『少年期』(八月、マルコボ)より。夏の陽光に照らされた駐輪場が短い夜を迎えると「銀色」に輝き始める。子どもたちに楽しく読んでほしいとの想い(「あとがき」参照)で編んだ句集だ。次は江戸時代の談林俳諧のように洒落た世界を覗いてみよう。
 
  座布団は全裸に狭しほととぎす
 
 山田耕司の『不純』(七月、左右社)より。「座布団は全裸に狭し」と真面目で妙な発見がゆかしい季語「ほととぎす」と響きあう……わけではなく、洗練されたズレが世界に対する驚きやユーモアを醸成する。このナンセンスに近い急展開を興がる認識は俳句の独壇場であろう。次は、「写生」がしっかり利いた作品だ。
 
  子猫洗ふ尻尾の雫絞りつゝ
 
 対中いずみの『水瓶』(八月、ふらんす堂)から。水に濡れた子猫のしおらしい様子が目に浮かぶ。<冬あたたか万年筆もその声も>等の佳句も収録されている。
 
 これら多様な句集を読むうち、自身も句を詠みたくなる読者がいるかもしれない。その際、岸本尚毅・夏井いつき共著『「型」で学ぶはじめての俳句ドリル』(九月、祥伝社)が参考になろう。
 
 例えば、俳句では難しい感情語をあえて詠む時、星野立子の<しんしんと寒さがたのし歩みゆく>のように「中七に感情語があって、下五でもう一度、描写に戻る」(ドリル16)と引き締まる、と具体的な説明が頼りになる。秋の夜長に読書と句作はいかが。