追悼 山田弘子(弘子の一句) (総合俳誌「俳句研究」)

「俳句研究」77-3号、夏号、2010.6.1、p.191。
2010年2月に急逝した山田弘子(「ホトトギス」同人、俳句結社「円虹」主宰)の追悼文。思い出深い一句に「蹄の音寒夕焼の彼方より 弘子」を掲げた。以下は掲載文。 


寒夕焼蹄の音の遥かより

 
山田弘子さんが生まれ育ったのは兵庫県和田山町(現・朝来市)である。小学生の時から短歌や俳句を詠み、地元の児童文芸誌『草笛』(昭和20〜26)に投稿した。その頃の『草笛』を開くと、<杉葉かきふと残雪を見かけたり 谷本弘子>(『草笛』24号、昭和24)などの作品が見える(谷本は旧姓)。以後、山田さんは一八歳まで和田山に暮らした。
 
 それから約六〇年を経たある時、ご一緒した句会で掲句が出た。童謡のように郷愁を想わせる作品である。昭和期に故郷を離れた方の句にも感じ、選に採らせてもらったところ、名乗りの際に「弘子」と名乗る声が聞こえた。
 
 句会が終わり、酒宴となった際、「寒夕焼の句は和田山の頃を詠まれたのでしょうか」とお聞きしてみた。山田さんは「そう、最近昔のことが懐かしくてねぇ」と笑って仰った。
 亡くなられたのはその一年後だった。
  
 句の掲載は「円虹」2009年3月号。