明治の椿はいかに落ちたか――俳句「赤い椿白い椿と落ちにけり」を読む――  (学術誌「日本文学」)

「日本文学」60-1、2011.1.10、pp.78-82。
河東碧梧桐の「赤い椿白い椿と落ちにけり」は、正岡子規によって「印象明瞭」と賞賛され、後に「写生」句の典型と見なされた。その特色は「ありのままを描く、(略)その淡々たるところ」(村山古郷)にある、とされることが多い。ただ、同時代の「椿」句――それも子規が「旧派・月並」と批判した句群――と実際に比較すると、碧梧桐句はあえて「月並」的趣向を無視し、全く技巧を放棄した点が斬新だったことがうかがえる。
 当時の「写生」句は「月並」句を踏まえた上でそれをずらす、または無視する点に重点が置かれており、そして「写生」の“俳句性”はその点にあると推定される。また、そのずれこそが新鮮な映像を現出させたのであり、少なくとも評者の子規はその意味で碧梧桐句を「印象明瞭」と評したことを論じた。