The Beach Boys"Heroes And Villains"のメモ

久しぶりにBeach Boysを聴いている。「Pet Sounds」(1966)や「Smile」(1967)といった黄金期の曲だ。
 この時期を、「黄金期」とするのは妥当でないかもしれない。
 ビーチ・ボーイズのイメージは「Surfin’ USA」(1963)や「California Girls」(1965)、という人は今も多い。「アメリカ西海岸=海とサーフィン=陽気なポップス」こそパブリック・イメージであり、「Smile」はむしろ彼らの暗い時期だった。
 
 リーダーのブライアンが変な曲を作り始め、それにとまどったレコード会社やメンバーが「そんな犬みたいな音(Pet Sounds)、誰が聞くんだ!」と迫ったために彼は参ってしまい、精神を病んでしまった時期なのだから。そしてこれ以降、ブライアンがビーチ・ボーイズを音楽的に率いることはなくなったのである。
 この頃のブライアンの曲には、確かに変わった音階が多い。半音階が奇妙なまでに多用され、時に不安定で、神経質ですらあり、リーダーであるブライアンのヴォーカルには焦燥感がパチパチと燃えているように聞こえる。 
  
 この時期、ブライアンは“神に捧げるティーンエイジのためのポケット・シンフォニー”を構想していたそうな。変なことを考えるものだ。ポップスとは2、3分で終わる他愛ない楽曲ではなかったろうか。
 
 ティーンエイジが何も考えずにシンプルなメロディーに身を任せ、気楽に聞くのがポップスであり、“ポケット・シンフォニー”だとか、“神に捧げる”だとか、そんな複雑で重たいなことが必要とされるジャンルではない。むしろ、面倒なことやいやなことを忘れさせてくれるのがポップスであったはずだ。
 しかし、ブライアンはそんなポップスの本流(?)とは逆のベクトルに情熱を捧げてしまった。
 一説にはコンセプト・アルバムを発表したビートルズに対抗するためだったとか、芸術家として世に認められたかったためとか言われているが、真偽は闇の中だ。
 彼は誰にも理解されないままレコーディングを続けた。膨大なトラックが録音され、何ヶ月も編集が続いたが、ある時ついにメンバーの不満が爆発し、ブライアンは決定的に孤立してしまう。そして、レコーディングはストップしたのである。
 
 結局ビーチ・ボーイズは「Smiley Smile」(原題「Smile」から少し変更された)というアルバムを発表したが、それはブライアンのレコーディングしたごく一部でしかなかった。しかもチャートからあっという間に消えてしまったのである。
 


 
 「Smile」はそういう多難な時期に発表されたアルバムなのだが、個人的には忘れがたい魅力を感じる。
 特に“Heroes And Villains”は不思議な曲だ。 
 「A-G-A-D」の繰りかえしが不安定な調子をかもしだし、またフラットも強調されているため、音階に敏感な人はあまり良い心持ちがしないかもしれない。
 しかし、この曲には単なるポップスの枠に収まらないものが――それを情熱といっていいかは分からないが――感じられるのも事実である。
 下は“Heroes And Villains”の公式テイク版。
 

The Beach Boys - Heroes and Villains
 
(BGM):The Beach Boys [Heroes And Villains] (1967)