栗本薫『グイン・サーガ2 荒野の戦士』(ハヤカワ文庫)

  
栗本薫『グイン・サーガ2 荒野の戦士』(ハヤカワ文庫、1979.10)、p.67。
ヴラド大公の令嬢にして白騎士隊隊長、アムネリスの描写。
 
若い女、というよりは、まだ少女といった方がふさわしいほどの年頃だったが、しかし彼女はすでに非常な威厳をかねそなえていた。背の中ほどまでもゆたかな波うつ黄金の髪のふちどられた、その形のよい頭は美しくもたげられ、何事にぶつかっても挫けまいとする意思を刻みこんだかのようにその優美な唇はひきしまっていた。しかしまたその唇は、もしそれがほほえみかけてくれたとしたらどんなに幸せであろうかと、見るものに考えさせるような艶めいたピンク色をしてもいたのである。そしてその緑色の瞳ははるかなケス河の水面に似て底深く、しかも男にも滅多に見られぬようなするどい決断と情熱、高貴と野望、そして冷徹と優雅のふしぎなきらめきを宿していた。
 ひとことでいってそれはまだわずかに未完成の、だがたぐいまれな成就へむかってあけぼののように確実にさしそめてゆく<美>の肖像にちがいなかった。それも青白くたおやかなイリスの女神の美ではない。常に甲冑をつけ、ツタをからませた槍を手にした姿として描き出されるイラナ、軍神にして太陽の神ルアーの最愛の妻にしてその右で戦う者であるイラナの再来ともみえて、白い装具に身をつつんで立ったその長身は、見るものすべてに飽くことない感嘆と嘆賞とを強いた。