【エッセイ】趣味と写真と、ときどき俳句と18 チャップリン映画の愉しみ方

初出:サイト「セクト・ポクリット」、2021.12.1。
趣味や大学の授業、俳句その他の随筆。18回目はチャップリン映画の個人的な愉しみ方について。チャップリンの著名な映画もいいが、"The Pilgrim"のような佳作に彼の演技や動作のキレを堪能できる場面が多いことなどを綴った。
  


  
チャールズ・チャップリン(1889-1977)といえば教科書に載る喜劇俳優で、20世紀文明や社会を批判した”The Modern Times”(1936)や” The Great Dictator”(1940)といった彼の映画は今なお言及されることが多い。
 
個人的には、チャップリン映画ではそれらの作品よりも”The Pilgrim(偽牧師)”(1923)あたりが好きで、というのも彼のコミカルな動きのキレが堪能できるためだ。
 
“The Pilgrim”の物語の筋は単純で、チャップリン扮する脱獄囚が牧師の服を盗んで聖職者になりすまし、色々あったがなりゆきで人助けをすることになり、最後は保安官の温情で脱獄の罪を不問に付される……という内容である。
 
脱獄囚は行き当たりばったりの適当さや軽快な無責任ぶりをふりまき、その様子をチャップリンが演じるのだが、動作の一つ一つに風来坊ならではの軽薄さが横溢していて、しかもキレがある。
 
さすが映画俳優になる前は数々の舞台で鍛えあげたプロの芸人……と妙なところで感心してしまう。
 
“The Pilgrim”の冒頭でチャップリンが牧師になりすまして駅前を歩いていると、駆け落ちした男女が彼を見つけ、その場で結婚式を挙げようと偽牧師を呼び止める。しかし、牧師に扮する脱獄囚は自分を捕まえるのかと反射的に勘違いし、一生懸命逃げ出す。
 
加えて駆け落ちした娘を鬼の形相で追いかけてきた父親が登場し、娘と男を見つけるや走り出すと偽牧師は二人と一緒に逃げ始める。
 
このあたりのチャップリンの演技は何度観ても素晴らしく、軽快なBGMがさらに偽牧師の適当さを支えて(?)おり、体幹やリズム感も抜群であるチャップリンの演技は何度観ても飽きない。
 
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(”The Pilgrim”冒頭場面)


 
例えば、バレエや舞踏、また茶道等に長年励んでいる方は全身の末端まで神経が行き届いているというか、身のこなしやごく僅かな所作にも違いを感じることが少なくない。
 
これは言葉や文章も似ており、意識的な書き手とさほど気にしない書き手では文章の質がおよそ異なるかに感じられる。
 
その点、チャップリンの動作のキレはとにかく凄い。頭のてっぺんから足の爪先までの隅々が「芸」によって磨かれ、身体の全てが躍動しているように感じられてしまう。
 
彼の映画を見直すたびに畏敬の念は深まるばかりで、しかもその尊敬の念を抱くポイントは物語の内容や作品分析と関係がなさそうな箇所ばかりなので、チャップリン映画の愉しみ方として良いのかどうか、たまに分からなくなることがある。
    
 
 
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