俳句の魅力 (総合俳誌「俳句研究」)

「俳句研究」冬号、77-5号、2010.11.30、267p。以下は全文。
 
 
 大学の授業で俳句を教えている。
 生徒達は主に小説や映画、ロックやマンガなどに親しむ人々で、俳句のことはほぼ知らない。中高校で芭蕉や子規の句を暗記した程度で、俳人はなぜか短命と思いこんでいる。
 
 授業内容はさまざまで、ある時は虚子句の不気味さを検証し、ある時には「手品師の指いきいきと地下の街 三鬼」の情景をイラストで描いてもらったり、落語と俳句に通底する「笑い」を追求することもあった。アニメ「エヴァンゲリヲン劇場版」と関悦史さん(1969〜)の作品との共通点を探ったこともある。
 
 初めは手探りだった生徒達も、授業を経るごとに俳句に慣れるようになる。久女句の中で「風に落つ楊貴妃桜房のまま」が最も哀しいと嘆息する生徒や、「月の供華ピアノの上に灯を塞ぐ 竹中宏」の美しさに感動する生徒もいた。一、二ヶ月前まで俳句をほぼ知らなかった彼らが、これらの句に足を留めるようになるんのだ。
 
 生徒達と俳句を鑑賞していると、単純なことを実感するようになった。
 彼らは優れた作品には反応するという点だ。
 生徒達には俳壇の動向や作家の知名度は関係なく、作品の魅力が全てである。このことを無言で示す生徒達に学ぶことは多い。